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福岡高等裁判所 昭和23年(上)157号 判決 1948年6月11日

上告人 被告人 合名會社呼子佃煮製造工場 代表者 前田銑之助

辯護人 松下宏

檢察官 野田實治關與

主文

本件上告は之を棄却する。

理由

右被告會社及被告人前田銑之助兩名辯護人松下宏の上告趣意書

第一點右判決は委託加工品に一般公定販賣價格を適用した違法があると思料致します。被告會社は註文によつて加工品も之を製造する定款の目的になつて居り、三菱商事會社佐賀出張所が商品でなく社員の厚生用に配給するからとて調味料その他特に指定し協定價格で夫れだけを特定限定量だけ製したのであります。各種商品の最高價格を定め檢査製品を販賣せしめる趣旨は一般市場性のある商品の販賣價格の統制でありまして右の様な委託加工品は此統制外であると思料仕ります。然るに原判決は之亦價格違反と即斷せられたのは違法であると思料致しますと謂い。

第二點被告人は違法の認識なく事實の錯誤により故意を阻却していると考えます。原判決は此點に於て法の適用を誤つた違法があると思料致します。右委託加工品は統制價格以外の取引であると信じ右被告人の意思は故意を阻却する錯誤によるものと思料致しますから此點を看過した原判決は理由不備、審理不盡の違法があると思料致しますと謂うにある。

そこで按ずるに委託加工とは、一般に消費者又は物品販賣業者が製造加工業者に對し原材料を提供して之にある種物品の製出加工を依頼しその加工料を支拂い、その出來上り品を受取る場合を謂い、原材料は一切自己手持ちのものを使用し之に自己の有する設備に依り一定の技術勞力を加えてある種の物品の製造販賣を業とするものがその同種物品に付たまたま註文者の特別の依頼に依り品質においてのみ上等の自己從來の普通製品を製造して該註文者に之を販賣する場合を包含しないものと解すべきところ、被告人前田銑之助が佃煮の製造加工販賣等を業とする被告會社の業務に關し三菱商事株式會社佐賀出張所に販賣した本件判示佃煮コウナゴは、之が製出の過程において多少工夫したに止まり、之が原材料設備、勞力、燃料等一切は賣主で負擔し之等所要經費に相當の利潤を加算して貫當り百七十圓にて販賣したもので、右説示中の後の場合に該當し、説示中の前の場合に所謂委託加工に依る製品でないことは、原判決引用の原審公廷に於ける被告人前田の供述に徴して明かである。果してそうだとすれば斯る場合の製品の販賣に付ても之が統制額以上の販賣に付行政官廰の例外許可を受けない限り一般普通の佃煮製品に付その規格業態別及數量に應じ公定された統制額に從うことを要し之を超えて販賣し得ないものといわねばならぬ。從つて原判決が被告人等の佃煮の販賣を法定の除外事由なき統制額超過販賣として物價統制令違反罪に問擬したのは相當であつて所論の如き違法はない。若し被告人前田が三菱商事會社に對する本件佃煮の販賣は委託加工販賣であるから一般普通佃煮の販賣の場合に於けるような價格統制以外の取引であつて統制額以上の價格販賣も法律上許容されるものだと信じたとすれば、法律の錯誤に陷つたものというべく而かも被告人一個の獨斷に基く重大過失に依るものだから、之が爲に犯意を阻却するものではない。だから、原判決には所論のような理由不備、審理不盡の違法は認められない。

以上のような次第で、辯護人の論旨は何れも理由がないから、刑事訴訟法第四百四十六條に則つて主文の如く判決する。

(裁判長判事 石橋鞆次郎 判事 筒井義彦 判事 後藤師郎)

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